7 夜の会話

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「……失礼ながら、そのような人は世にはいないのでは? それとも私が知らないだけで、王都にはそういう慈悲に溢れた方が闊歩していらっしゃるのでしょうか?」  生家にはいなかったが、広い王都にはいるのかもしれない。満面に疑念を浮かべたリゼルに、グレンが太く息を吐き出した。 「その通り、存在しない。そんな男は王都では詐欺師と呼ばれる。だが俺の母は今日もそういう男を求めて社交界に繰り出しているわけだ。そして――肩書と外見に惹かれて俺に近寄ってくるご令嬢達も、そういう勝手な性質の人間が多かった。兄には女難と言われたよ」 「そ、そうなのですか」  それには自分との結婚も含まれているのではないか――と冷や汗が流れる。しかしグレンは濃淡のない口調で続けた。 「顔も知らぬ令嬢に突然手紙を送られるのは日常茶飯事で、勝手に私物を盗まれたり、飲み物に薬を盛られたり。どこぞの未亡人が知らない間に俺名義で土地を買っていたのはやや面白かったな。別荘も建っていた」 (それは面白いのかしら!?)  社交界とは恐ろしい場所だ、と腕に鳥肌が立って思わずさすってしまう。「持ちこまれる縁談を片端から断っていたらそうなっていた」とグレンは笑みを消し、きっぱりと話を結んだ。
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