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「だから俺は社交と同様に、女性もあまり好ましく思っていない。リゼルと結婚して酷い態度を取っていたのはそのせいだろう。……俺の方こそ、俺を苦しめた者達と同じことをしていたのに、それに気づかなかった」
少しのあいだ瞑目した後、グレンは言った。
「俺は人の心の機微には疎いから、リゼルに教えてほしい。どうしたら不安を取り除けるのか。何が好きで、何が嫌いなのか。そういうことを、リゼルの口から聞きたい」
こちらに向けられる面持ちは生真面目だった。真剣な瞳はリゼルをこの場に縫い止めるようで、ぐ、と息が詰まる。
唐突に投げられた問いは今まで考えたこともないもので、即座に答えられない。沈黙を埋めるように魔力炉の小鍋に目を向けた。まだ湯は沸きそうになく、どこにも逃げ場はなかった。
それに、とリゼルは唾を飲みこむ。逃げてはいけないと思った。グレンは過去を明かしてくれたのだ。ならばリゼルだって話すのが公平というものだろう。
「わ、私は……」
膝に置いた手が小刻みに震える。俯くと、銀の髪がさらりと垂れ落ちた。流星の尾のような一房を無意識に握りしめ、ぎこちなく伝える。
「まず、嫌いなのは……狭い場所。窓のない部屋」
グレンが不審げに顔をしかめた。
「今までに、そういう場所にいたことが?」
「実家、で……」
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