8 デートの準備

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8 デートの準備

* 「それってデートではないですか!」 「そうなの?」  すぐにやって来た次の休日は、よく晴れていた。  リゼルは朝から自室にネイを呼びつけ、「今日は旦那様とお出かけなのだけど、何を着たらいいかしら」と馬鹿正直に相談したところだった。  ネイははしゃいだ様子で両手をぱんと打ち合わせ、衣装部屋に続く扉を勢いよく開け放つ。そこに収められた色とりどりのドレスを見比べ、両頬を手で押さえた。 「やっとこのドレスの出番が来たのですね、どれにしましょう!」 「……なんだか、嬉しそうね?」  ネイはあまりグレンを好きではないようだった。二人で出かけるのを快く送り出してくれるとは思っておらず、鏡台の前に座ったリゼルは困惑する。  薄青のサテン地に銀糸で華やかな刺繍の入ったアフタヌーンドレスを手にしていたネイが、くるりとこちらを向いた。 「私の一番大切なものはリゼル様の幸せです。ですから、今までの旦那様の行状は許し難いものでした。でも最近の旦那様はリゼル様を大切にしているようですから、喜ばしく思いますよ」 「そう……」  ちら、と鏡に視線を移せば、不安そうに顔を翳らせた自分自身と目が合う。ネイの気持ちは嬉しいのに、その言葉が胸の隅を引っ掻いて小さな疵をつける。
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