2 二人が結婚した理由

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 武勇に優れ、王族からの信頼も篤く、代々騎士団の団長を務めるコーネスト伯爵家とたかが男爵位のマギナ家では釣り合わない――通常なら。  だがマギナ家には、傾いた天秤を押し上げる特別な力があった。  それが、魔法。  この国において、マギナの血を引く人間にのみ許された奇跡の力。怪我や病気の治療をしたり、何もないところから火や水を生み出したり。物騒なところでは近くの人間の心臓を止めたり、巨大な建物を押し潰したり。できることは多岐に渡る。  なぜマギナ家だけがこのような力を持ち得たのかは判然としない。ただ、マギナ家はかつて存在した古代王国の王族の裔であるとも言われていた。  その昔、大陸を統べる旧き女神が三人の勇士を選んで魔法の力を与えた。そのうち一人は大陸の果てへ向かい、そのうち一人は山奥に隠棲し、そのうち一人は国を興した。その末裔がマギナ家なのだ――と。少なくとも、マギナの人々はそう信じている。  そんな彼らは自分たちの力の希少価値を高めるために、貴族に対してしか魔法を使わなかった。しかもかなり高額な対価とともに。  さらに血の流出を恐れて近親婚を繰り返し、王都から離れたマギナ領の山奥にひっそりと暮らして外部との交流を絶っている。  そんな神秘の家の娘を得られるとなれば、コーネスト伯爵家が身を乗り出すのも無理はない――のだが。
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