8 デートの準備

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 今のリゼルは、グレンとの出会い方を変えた『もしも』の世界を生きているようだった。  もしも、祖父の約束がなかったら。  もしも、普通の貴族同士として社交場ですれ違っていたら。  もしも――。  だが現実にはあり得ない。祖父の約束がなければ、リゼルはグレンに出会うことすらなかったのだから。  懸命に自分を説き伏せていると、ネイが背を撫でてくれた。 「いつも思うのですが、リゼル様は少し考えすぎですね」 「え……?」  頼りなく顔を上げると、自信満々に笑うネイと視線がぶつかる。 「確かに、今の旦那様はまっさらで人が変わったようです。でも、それが偽物だというわけではないでしょう? お医者様も、一面だと仰っていたではありませんか。それに記憶が戻ったとしても、今お二人が積み重ねている時間が消えてしまうわけではありません」  ネイはしゃがみこんで、お仕着せのエプロンドレスの裾が床につくのも構わず、リゼルと目線の高さを合わせてくれた。 「この騒動がなければ、お二人が心を交わすことはなかったでしょう。でも今、その道は変わりました。お二人はもう、お互いを知ってしまった。知らない頃には戻れません。――だから、大丈夫ですよ」 「どうしてそう言えるの……?」  頑是なく問い返すリゼルに、ネイは目元を和らげた。  「そんなの、見ていればわかります」
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