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優しく言って、何かを思い出すように視線を斜め上に向ける。それから、ふふっと肩を揺らして笑った。
「旦那様の、リゼル様を見る目の甘さったら! 糖蜜で煮詰めた蜜飴より甘いですよ。あんな顔をしておいて、今更元に戻れるものですか!」
ネイの弾けるような笑い声を聞いていると、リゼルのこわばった体からゆるゆると力が抜けていく。彼女の発言の真偽はともかくとして。
ネイの言う通り、今のリゼルとグレンの間で重ねた時間がいつかの未来を変えるなら、それは命に代えた魔法でも叶えられない奇跡だった。
……とはいえ。
(旦那様、そんなお顔をしていたかしら……?)
全く身に覚えがない。というより、リゼルは自分以外と接するグレンを見る機会がないので、誰に対してもあんな感じなのかと思っていた。
リゼルの顔色が良くなったのを察したか、ネイがスカートの裾をさっと払って立ち上がる。そうして腰に手を当て、ビシリと指を突き出し宣言した。
「だから今、リゼル様がすべきことは、とびっきりお洒落をして、旦那様を籠絡することです!」
「ろ、籠絡?」
「そうです! リゼル様はお美しいのですから、ちょっと化粧をすればどんな殿方だって落とせますよ。こうなっては、私一人では手が足りないですね」
ネイは慌ただしく部屋の入口へ向かう。勢いよく扉を開けたかと思うと、廊下に向かって声を張り上げた。
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