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9 寂しい、ということ
*
華やかなドレスを纏って玄関ホールに現れたリゼルを一目見て、グレンは狼狽えたように「はっ?」と声を漏らした。
「リゼルか……?」
「侍女の皆さんに手をかけていただいたのです。に、似合いますでしょうか……」
言いながらもリゼルはそわそわと落ち着かない。顔に施した化粧も、一部を結いあげて百合の花飾りをつけられた髪も、至る所にフリルとレースが施されたドレスも、何もかも慣れないものばかりだ。
グレンは目を見開いたままで返事はない。と、その背後にネイが現れてぐいっと脇腹をどついた。……ど、どついた!?
だがグレンは気にした風もなく、我に返って姿勢を正す。
「すまない、愛らしすぎて言葉を失っていた。今初めて、ろくに社交をしてこなかったことを後悔している」
本当に悔やむように秀麗な顔を歪めるので、リゼルは呆気に取られる。
「どのような意味でしょうか……?」
「俺が剣ばかり振るっていなかったら、もっと何かまともなことを言えたはずなんだが、何も浮かばない。……本当に可愛い」
しみじみと告げられる素朴な賞賛は、飾り気のない故にグレンの本心を直接伝えてくるようだった。リゼルの頬がじわりと熱を持つ。
「旦那様のお隣を歩いて、変ではないでしょうか……?」
「変なわけがあるか。むしろ、俺の方が見劣りするんじゃないかと心配なくらいだ」
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