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口早に答えるグレンは、略装の騎士服姿だ。帯刀こそしていないが、その居住まいは周囲の背筋を伸ばすほど堂々としていて、思わず見惚れてしまう。
まじまじと馳せられるリゼルの視線に気づいたのか、グレンが面映そうに頬を指でかいた。
「休みではあるが、王都に出る時はいつも騎士服を着用するようにしている。犯罪抑止になるからな」
「それでは一時も気を抜けないのではありませんか?」
休日なのに疲れないだろうか、と心配になる。しかしグレンは「騎士団長としては当然だ」と笑って肩をすくめた。社交より剣技を優先するグレンらしい。
それから一転し、真面目な顔つきになって言う。
「そういうわけだから、リゼルはあまり可愛い振る舞いをしないでくれ」
「はい。……はい?」
何を言っているんだこの方は、と怪しむが、グレンはいたって真剣だった。
「リゼルといると俺の頬が緩む。だが街で甘い顔を見せると、悪党をつけあがらせるからな」
「……旦那様は、笑うのもだめなのですか?」
隣でグレンが仏頂面を作っているところを想像すると、この外出には何の意味もないように思えた。鳩尾の辺りに冷たい風が吹き抜けていくような心地がする。
しょぼんと肩を落とすと、グレンが歯切れ悪く答えた。
「……たぶん、それくらいなら平気だが」
「良かったです。旦那様の笑顔が見られないのは……何というのか……」
この冷え冷えとした感じを何と表現すべきかわからない。頬に指を添えて考えこみ、一つ思い当たってぽんと手を打った。
「寂しい、ですので」
「そういうのを……いや、俺が律すればいい話か……」
グレンは白手袋をした手で口元を覆い、何か苦悩しているようだった。金髪の隙間から覗く耳が赤い。ホールの隅に下がったネイがニヤニヤしている。
きょとんと見上げれば、わざとらしく咳払いをしてグレンはリゼルの手を取った。
「では行くぞ。忘れられない一日にしてやる」
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