10 自覚する恋

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 おどけて片目を閉じてみせるロズに、グレンが「ほう」と冷ややかに笑う。 「そんなくだらん噂話に興じる余裕があるなら、もう少ししごいても良さそうだな。次の鍛錬では覚悟しておけ」 「ほんの冗談じゃないですか!」 「騎士なら自分の言葉には責任を持て」 「職権濫用ですって!」  丁々発止とやり取りを交わす二人を前に、リゼルは首を傾げていた。どれも全く身に覚えがないし、別人になったようなのは記憶喪失が原因だ。しかし一つ聞き捨てならぬ点があって、これだけは訂正しておかねば、と急いで前に出た。 「あ、あの、私はマギナ家の魔女ですが、誓って魔法は使っておりません。そもそも人心を操作する魔法はとても扱いが難しく……」  小さな手のひらを開いて突如滔々と語り始めたリゼルに、ロズがきょとんとする。グレンも物珍しそうに両目を見張り、こちらを見下ろしていた。 「現在のマギナの魔法系統では容易に人格を変えることはできず、それを成すのであればもう数世代に渡って研究を進め、さらに異国の魔法との混淆が必要かと……え、えっと、つまり何が言いたいかと言うとですね?」  ぬるい風が三人の間を通り抜けて、講釈の余韻を吹き散らしてゆく。これは完全に間違えた、とリゼルの背中に汗が滲んだとき、ロズがぷっと噴き出した。 「あっははっ、よくわかりました。リゼル嬢の魔法ではないんですね。じゃ、愛の力だ」 「えっ?」
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