2 二人が結婚した理由

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 グレンの祖父が最も重視したのは、そこではなく。  リゼルの抱えた事情の方だった。 (……お祖父様は仰った。私は〈鳥の目〉を持つのだと)  目を閉じれば、今でもリゼルはありありと思い出すことができる。マギナ領を見渡せる山の上。ともに夕暮れを見ながら、頭を撫でてくれた祖父の悲しげな笑顔を。枯れ木のように乾いた祖父の手の温かさを。  とかく排他的なマギナ家において、リゼルは『異端』だった。  リゼルにはわからなかった。どうして貴族にしか魔法を使ってはいけないのか。どうして高額な報酬と引き換えにしか魔法を使ってはいけないのか。  目の前の村人が日々の蓄えの中から差し出すほんのわずかな、けれど精一杯の銅貨をもって、どうして村人の子供にささいな魔法薬を与えてはいけないのか。  どうしてマギナ領を出てはいけないのか。どうして異国の魔法を研究してはいけないのか。どうして、どうして。――そうして。  リゼルは忌み子として嫌われ、屋敷の小さな離れに閉じこめられて暮らすことになった。 『あの鳥を見ろ』  時々、祖父はこっそり離れからリゼルを連れ出した。そして最も遠くを見渡せる山頂で、蒼穹を飛んでいく渡り鳥を指差した。 『あの鳥は、この国で最も高く飛ぶんだそうだ。リゼルがあの鳥になったら、何をしたい?』
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