10 自覚する恋

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 これ以上は邪魔になるだけだろう。リゼルは素直に頷き、近くの商館らしき建物に滑りこんだ。室内は人で溢れかえっていたが、何とか窓に近づき、グレン達の様子を窺う。  (す、すごい……!)  リゼルはその鮮やかな剣技に目を奪われて立ち尽くした。手のひらを窓に押しつけ、まつ毛がガラスに触れそうな距離で食い入るように見つめる。  グレンは振り下ろされる魔獣の鉤爪をすらりと避けると、長剣を振り上げ、爪の一本を難なく斬り落とした。不思議なことに魔獣の傷口から血は出ず、斬られた爪は地面に落ちる前に黒い靄のようなものに変わって消え去った。 (あれは一体どういう生態なのかしら。マギナ領では見ない魔法系統だわ……じゃなくて!)  リゼルの作った長剣も無事に役目を果たしているようだ。これならきっと大丈夫だと胸を撫で下ろしかけたとき。 「ロズ!」  グレンが鋭く叫ぶ。見ると、身悶えた魔獣の後ろ脚がロズを蹴りつけるところだった。彼の体は宙を飛び、リゼルの避難する商館の壁に叩きつけられる。堅固な石造りの建物が、ぐらりと揺れたような気さえした。 「ロズ様!」  人々のどよめきを背に、リゼルは居ても立っても居られなくなって商館から外へ飛び出した。入り口のすぐ近く、荷の木箱が積まれた脇に、ロズが痛そうに顔をしかめてもたれていた。右肩を押さえている。長剣はどこかに転がってしまったのか見当たらない。
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