10 自覚する恋

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「リゼル嬢、来てはだめです」  ロズが掠れた声で言う。しかしリゼルは聞いていなかった。かたわらに跪き、ロズの右肩に手を添える。 「だ、大丈夫ですか。今、回復魔法をかけますから……!」  こういう時に役に立たないのだったら、リゼルの魔法なんて何の意味もないように思えた。  視界の端に、グレンが戦っているのが映る。長剣の切先が魔獣の脚を斬りつけ、黒い靄が散る。魔獣の歪んだ叫声が耳をつんざいた。確実にダメージを与えているようだが、倒れない。グレンの顔には焦りが見える。ロズも悔しげに唇を噛んで戦場を見つめている。 (早く、早くしないと……)  焦燥に震えながら髪に手をやり、何本か引き抜こうとした瞬間、頭上を大きな影が覆った。 (雲がかかった……?)  反射的に見上げた先、信じられないものが目に飛び込んできてリゼルは息を呑んだ。  羽根を広げて空を飛んだ魔獣が、こちらに向かって突っ込んでくる。凄まじい速度だった。鋭い嘴が陽光にぎらついて瞳を射る。リゼルの指先は凍りつき、魔法の一つもかけられなかった。  ロズがリゼルに覆い被さるようにして庇おうとしてくれる。自分なんかのために、と胸が痛む。けれど研ぎ抜かれた白刃のような嘴に、人間一人がどれほど効果的だろう。  リゼルは瞼を閉じ、痛みを覚悟して歯を食いしばる。眼裏にはロズもろとも串刺しになる光景が焼きついた。
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