10 自覚する恋

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 しかし衝撃はいつまで経ってもやって来ない。不審に思って目を開けたとき、眼前にぼとりと何かが落ちてきた。 「ひっ……」  思わず小さく悲鳴をあげる。それは斬り落とされた魔獣の首だった。先ほどまでリゼル達を穿たんとしていた嘴がぽっかりと開き、隙間から赤黒い舌が力なく垂れている。  苦悶にカッと見開かれた眼球とまともに目が合う前に、頭部は靄となって消えた。 「え……」  眼前に影が差す。つられるように顔を上げると、長剣を手にしたグレンが立っていた。切先が震えている。翡翠色の瞳は、今しも崩れゆく魔獣の胴体を険しく睨めつけていた。彼が魔獣の首を斬って倒してくれたのだろう。  旦那様、と呼ぼうとして声を呑みこんだ。まとう空気が、重い。 「――魔獣風情が、よくも我が妻を」  吐き捨てる声色があまりにも冷え切っていて、リゼルの背筋が粟立つ。こんな恐ろしい声を出す人に出会ったことはない。けれどわかる。彼は、ものすごく、怒っている。  どうしたらいいかわからず固まっていると、ロズが呻いて起き上がり、ぱあっと顔を明るくした。 「あ、団長~! 助けてくださってありがとうございます!」  からりと空に抜ける朗らかな響き。グレンは小さく息を吐いて、張りつめた空気を消し去り、くるりと振り向いた。 「二人とも無事か?」
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