10 自覚する恋

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 建物の窓から、通りから、人々は口々に二人を褒め称える。とうとう付近の建物から民が雪崩を打って出て来るや否や、彼らはあっという間にグレンを取り囲んだ。人垣に阻まれて、彼の長身は見えなくなってしまう。 「やっぱり団長は慕われているんですよ」  ロズが英雄を見るように目を輝かせ、熱をこめた口ぶりで語る。リゼルも眩しいものを見るように瞳を細めた。 「旦那様は、こうやって国民の皆様をずっと守ってきたのですね」 「民だけじゃありません。団員だって守られていますよ。いつだって危険な場所に一番に赴くのは団長なんです。だからみんなついていくんですよ。戦場じゃちょっと恐ろしいくらいですけどね」 「ふふっ、旦那様らしいですね」  知らず笑みがこぼれた。  グレンの記憶喪失の状況を思い返す。魔獣退治の最中、彼は怪我を負って記憶をなくしたという。その信念が、少なくとも一度彼を危険に晒した。――いずれはもっと、大切なものを失わせるのかもしれない。  広場に風が吹き渡り、リゼルの髪を揺らしていく。ぎゅ、と指を握りこんだ。さっき抱きしめられた温もりを、少しでも手の中に留めておくように。 (……ああ、そうなのね)  心臓がことんと鳴る。それは花の芽吹くようなささやかな音だった。けれど、リゼルの耳にははっきりと聞こえた。
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