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誇りを持って他者を守り、危地に真っ先に駆けつけてしまうような人に、何も失わせたくない。リゼルの手は小さくて、何もかも守れるなんて言えやしない。それでも、一つでも多くのものをグレンの手に残したかった。何を代償にするとしても。
なぜなら。
人垣が動いて、隙間からグレンの整った横顔が覗く。彼の守る民に囲まれた、頼もしい面差し。当然のようにリゼルを助け、慈しんでくれる人。
その顔を垣間見るだけでふわりと心が浮き立つ。もっと見ていたいと視線は自然と引き寄せられるのに、目が合ったらどうしようと俯きたい心地になってしまう。どうしようもない矛盾がリゼルの胸を激しく引き裂く。
――つまりは、グレンに、恋をしている。
たった今、そう自覚してしまった。
(……それに)
もう一つ、リゼルには気づいたことがあった。つい先刻、グレンに抱きしめられたとき。初めてあの距離まで近づいて、リゼルはやっと感じとったのだ。
人々のざわめきが遠い。ロズが何か話しかけてくれるのも聞こえない。ずいぶん温度を失った両手を、リゼルは握り合わせた。一瞬だけグレンがこちらを見たような気がしたけれど、定かではなかった。
リゼルが悟ったこと。それは。
――グレン・コーネストには魔法がかけられている。
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