205人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
唐突な問いに、リゼルは腕を組む。魔法を使えばあの鳥に変身するのは十分可能そうで、考えるだけでワクワクした。
『それなら、この国で一番高い山に行ってみたいわ。そこにしかない物と、そこからしか見えない世界を見るの。どんな花が咲いてるんだろう、街はどんなふうに見えるんだろう、どんな人に会えるんだろう……楽しみね、おじいさま!』
一つ一つ数え上げるリゼルの隣で、祖父は黙って空を仰いでいた。そして、ポツリと零した。
『そうだ。それがリゼルの持っている〈鳥の目〉だ。好奇心と探究心。外の世界への憧憬。今のマギナ家から失われたもの。それこそが魔法を発展させ、家を栄えさせるだろうになあ……』
後半の意味はよくわからなかった。首を傾げていると、祖父はくしゃりと笑って幼いリゼルを抱き上げた。
『リゼル、どうかその気持ちを忘れないでおくれ。辛いことも多くあるだろうが、儂がいつかここから連れ出してやるからな』
思えば、騎士団と行動を共にしていた祖父も同じく〈鳥の目〉を持っていたに違いない。家族から疎まれる悲しみを味わい、それでも外界への憧れと魔法への探究心を捨てられず、苦労したのだろう。そしてその苦しみを、孫にはさせまいと決めていたのだ。
しかしそんな機微を知る由もなく、リゼルはただこくんと頷いた。ただ、いつか外へ行ける、という希望だけを胸に刻みつけて。
二人の頭上で鳥はどんどん遠ざかってゆき、その影はもうほんの小さな黒い点にしか見えなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!