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リゼルの一つ下の妹、メイユ・マギナだった。実家では両親に溺愛され、マギナ家の将来を嘱望されていた娘だ。
結婚以来、久しぶりに相対する妹の姿に本能的に目を隠そうとしてしまう。けれどそれをぐっと堪え、代わりに長着の内側に隠した短剣に触れた。
メイユは唇を歪め、背後の温室に視線だけを投げる。
「これがお姉様の魔法庭園? ずいぶん小さいのね。私のものとは全然違うわ」
嘲笑うような声は闇夜の底によく響いた。実家ではよく聞いていた声音。しょっちゅうぶつけられていた侮蔑と悪意。
片手を握りしめ、早まる鼓動に落ち着けと言い聞かせる。彼女の狙いを見定めなくては。
「……あなたは何をしに来たの」
「お父様の命令よ。お姉様を、マギナ家に連れ戻すようにって」
メイユは肩をすくめて言い捨てた。右手の中指に嵌められた指輪が月影にきらめく。その内側には針が仕込まれていて、血を代償に即座に魔法を発動できることをリゼルは知っていた。
「お姉様みたいな出来損ないでも、マギナ家の血は貴重だから。どうしてわからないの? マギナの魔女の役目は、この血を次代に引き継ぐこと。それを放棄するなんて酷い裏切りだわ」
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