11 襲撃

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 メイユの口吻には一雫の疑念もない。地面に踏ん張る足が萎えそうになる。いつもそうだった。物心ついてからずっとずっとずっと投げつけられてきた嘲りは、リゼルを容易く過去に引きずり戻す。呼吸が浅くなって、頭が真っ白になった。 「こんな家とは離縁して戻ってくるのが正しいのよ。どうせ、コーネスト伯爵からは愛されていないんでしょ? お姉様がこんな所にいたって意味ないわ。分不相応よ」  一つ一つの言葉が鏃となって、リゼルの小さな心臓を穿った。  魔獣に襲われたときのことを思い出す。リゼルは武器を提供したくらいで、他にはまるで役に立たなかった。ロズを治療しようと出しゃばって、守られてばかりで。広場で皆に囲まれるグレンは遠くて、リゼルの手など届かないほど眩しかった。  愛される資格なんてないとわかっている。今のグレンには魔法がかけられていて、だから大切にされているのも理解している。  リゼルの好奇心なんて殺してしまって、大人しく帰った方が皆のためになるのかもしれない。実家の離れで、マギナの血を残すという素晴らしいお役目に従事するのが、本来のリゼルの使命だった。  魔法だって永遠ではない。いつか魔法が解けたら、グレンも正気に戻ってリゼルとの離縁を喜ぶ可能性もある。  ――だとしても。  耳の底に蘇るのは、たった一人の夫の声。
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