11 襲撃

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 リゼルは深く息を吸いこんだ。清涼な夜気が肺の底まで満ち満ちていく。思考を霞ませる靄が晴れて、胸底に生まれた、小さな決意が顔を覗かせた。 「い……嫌、です」  声は空気をかすかに震わせるほどのか細さだった。けれどリゼルの精一杯だった。  メイユは過たず聞き取ったようで、眉間に深い皺を刻む。  「嫌? 今、お姉様は嫌と言ったの? 信じられないわ、家族の決定に逆らうなんて! そんな酷いことを言うなんて、私たちへの愛が足りないんじゃなくて? そんなことだからお姉様は皆から嫌われるのよ。今がそれを挽回するチャンスじゃない」  糾弾は耳を素通りした。父も母も、リゼルを愛しはしなかった。本当は愛されたかったのか、それさえもうリゼルは覚えていない。遠い昔、まだ幼かった頃には、寂しさに泣いた夜もあったような気がする。  けれど、もういい。リゼルの望みは他にある。  グレンの腕の温かさを思い出す。離すまいとするようにひしと抱きしめられた、力強さを。  リゼルはまっすぐ背筋を伸ばし、メイユをひたと見据えた。 「何と謗られようと、私の返事は変わりません」  二人の間を冷ややかな風が吹き抜け、リゼルのまとう絹の長着の裾を揺らしてゆく。縫い取られた錦糸の花刺繍が、波打つように月光を映じた。  メイユの顔が激しく歪む。紅い瞳が険悪に眇められ、探るような視線がリゼルの全身を這い回った。
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