11 襲撃

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「そう。伯爵夫人なんて傅かれる日々は楽しかった? ずいぶん綺麗な格好をしているものね」  吐き捨てるように言って、口元に嫌な笑みを浮かべる。それから一転、両目を見開いて甲高く叫んだ。 「でもどれだけ着飾ったって意味ないわ。お姉様が〈鳥の目〉持ちの忌み子だって事実は変わらない! そんな娘が、誰かに愛されるわけないわ!」  そうかもしれない、とリゼルは淡く思う。この性質は変えられない。役目に殉じることはできない。いつだってリゼルの目は未知と未踏に惹かれるし、狭い場所は一生好きになれそうにない。恋をしたって、それは変わらなかった。  でも、だからこそ、得られた出会いもあるのだろう。 「私は……旦那様のおそばにいたい。それだけです」  与えられる温もりが、たとえ幻だったとしても。  この想いはもう変えられない。  とんでもないわがままを言っている、と足がわななく。自分の居場所を自分で決めるなんて生まれて初めてのことだった。今までずっと、リゼルは誰かの意思と約束によって運ばれてきたのだ。  記憶が戻ればグレンはリゼルをまた嫌悪するかもしれない。けれど今、リゼルが受けた慈しみは本当だ。せめてその分だけでも報いたい。そばにいろと言ってくれた人に、精一杯の真心で応えたい。  長着の上から短剣の柄を押さえ、キッと眦を決したリゼルに、メイユがうっすら笑いかけた。
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