11 襲撃

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 こんな状況なのに胸がときめいて苦しい。心臓が痛いほど脈打って、頬に血が集まる。  たぶんこういうところが、家族には不気味に映っていたのだろう。現に今も、メイユが薄気味悪そうに眉をひそめている。 「お姉様はどうしてそんな顔ができるのかしら。状況がおわかり? 本当に愚鈍で間抜けなんだから」 「す、すみません。わかっております」  唾を飲みこんで頷き返す。そうだ、呆けている場合ではない。メイユの手にはグレンの記憶があるのだ。  メイユが小瓶をひらひら揺らせば、靄の白さが夜闇に際立った。 「私は優しいから、お姉様にもう一度機会をあげるわ。さあ、離縁すると言いなさい。そうすれば皆幸せになれるのよ!」  ごう、と熱風が吹きつける。次の瞬間、リゼルは鞘を抜き払い、手のひらを一文字に斬りつけていた。真っ赤な血が地面にパタタッと散る。痛みも感じなかった。それよりも、四方から押し寄せる火球を避けるのに必死だった。いくつもの魔法障壁を繰り出し、それら全てを捌き切る。 「あら、お姉様のくせになかなかやるわね」  メイユが艶やかに笑う。その中指にも血が滲んでいた。彼女が魔法で火球を生み出し、リゼルにぶつけてきたのだ。  手のひらを汚す血のぬるさが気持ち悪い。  古代王国の王族の裔と言われるマギナ家。その高貴らしい血を流すことでしか、家族と関わり合えないなんて。
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