11 襲撃

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「それならこれはどうかしら」  鈴を転がすようなメイユの声が聞こえたと思った刹那、視界が暗転する。反射的に障壁を重ねて警戒したが、追撃は来なかった。  ただ、風の匂いだけが変わる。  次に視界が晴れたとき、リゼルの前から魔法庭園は消えていた。 「……これ、は……」  代わりに眼前に広がる光景に、乾いた唇から震え声がこぼれる。いつの間にかリゼルの横に立ったメイユが、自信満々に小鼻を膨らませた。 「お姉様にとっては懐かしいかしら。自分の生家を忘れたとは言わせないわよ」  目の前に建つのはマギナ家の本邸。コーネスト伯爵邸からは馬車と徒歩とを合わせて三日はかかる山奥にそびえる、小ぶりな王城めいた屋敷。  びゅっと空気を割くような風が吹いて、屋敷を囲む森をざわめかせる。王都よりも夜空の藍色が濃い。星々の輪郭がくっきりとしている。離れの羽目板の隙間に目を押し付けて覗いた、見慣れた夜空だった。  リゼルは障壁を張ることも忘れ、メイユに訊ねた。 「時空転移までできるように……!?」 「そうよ。私はお姉様と違って優秀な魔女だもの。これくらい簡単なの。もうすぐお父様やお母様も来るわ」  新たな魔法の進歩に歓喜する間も無く、背筋に冷たいものが走る。わななく右手から短剣がすり抜けてしまいそうだった。  ――連れ戻されてしまった。
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