11 襲撃

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 とうとう右手に力が入らなくなって、短剣が地に落ちる。芝生が刃を柔らかく受け止め、何の音もしなかった。  手のひらを切りつけた痛みが、遅れて届いた。心がどんどん冷えていく。 (――違う。これは、思っていたのとは全然違うわ)  リゼルは引きずられるように歩きながら、ぼそりと低く囁いた。 「メイユ、この景色は全て、偽物ですね。これはただの幻覚魔法です。時空転移なんて嘘」  右手を行くメイユの唇がぴくりと引き攣る。両親が不審そうに「何を言っているんだ?」「とうとう気が狂ったのかしら」などと言うが、もはやどうでもよかった。 (なんだ、時空転移はまだ難しいのね)  呆れと失望が胸底に澱んだ。脳機能に作用して、対象者に幻覚を見せるこの幻覚魔法は、リゼルが生家の離れにいた頃開発したものだった。  人間の臓器の中で最も複雑な脳に働きかける魔法で、当時はなかなか難易度が高かったが、今となってはさして目新しいものではない。リゼルは足を止め、メイユをじろりと睨みあげた。 「……少し、がっかりです。この魔法はもう、見たことがある」 「は……」  メイユの顔に、この夜初めて恐れが浮かんだ。一歩後じさり、目尻に漣のような皺を寄せて嗤う。唇の端を妙な角度に吊り上げた、醜い笑顔だった。
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