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屋敷が、両親が、夜空が、端から砂のように崩れては消え去っていく。両親の怒声がこだましたが、すぐに引きちぎれるように捻れて失せた。
一瞬の暗転。ふと目を上げると、リゼルはまた魔法庭園の前に戻っていた。目くらましにメイユが張っていたのであろう結界が、粉々に砕けて散っていく気配がある。
「メイユ……」
目の前に立つ妹は、信じられないという表情をしてリゼルを凝視していた。白目が充血し、目が真っ赤になっていた。
「つまらない小細工をしないでください。私たちは魔女でしょう。魔法にだけは、真摯にならないと。それが魔女の誇りではないですか」
「うるさいっ! うるさいうるさい! 何が誇りよ、わかったような口をきかないで!」
再び火球が襲ってくるが、速度も威力も落ちていた。心が乱れているのだろう。簡単に払い落とせる。
「もう帰ってください。それで二度と、私には関わらないで」
「ふざけないで! 役目から逃げ出した〈鳥の目〉なんかより、私の方がずっと優れているんだから! あんたを連れ戻すまで私は帰れない!」
メイユの叫びが烏夜を貫く。リゼルは仄暗い心地で短剣を握りしめた。
妹との距離はたったの五歩。でもこの隔たりが、魔法でだって越えられない彼我の差と知った。
血を分けた妹に、攻撃するのは気が進まなかった。
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