11 襲撃

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 良い思い出など少しもない。彼女は物心ついた時から〈鳥の目〉のリゼルを見下していて、食事に泥を混ぜたり、ネイを苛めたり、散々だった。  それでも魔法の進歩の先にあるのは、そんな景色ではないはずだった。もっと素敵なものが見られるはずだと、リゼルは信じてここまで来た。 (……だけど、やらないと)  もう一度柄を握り直す。よく研がれた刃を手のひらに押し付けたとき。 「――リゼルがそんなことをする必要はない」  強い声が降ってきて、リゼルの手から短剣が奪われた。 「え……?」  ぽかんと口を開いて見上げれば、いつの間にかグレンが隣に立っていた。リゼルから取りあげた短剣を懐に収め、底光る両目は油断なくメイユを捉えている。月光を浴びた髪が、銀砂を振りかけたように輝いていた。どれほど足音を殺していたのだろう。全く気づかなかった。  思わずふらついたリゼルの背を、揺らぐことなく片腕で支えてくれる。  その腕の力強さにホッと息を吐きだしながら、リゼルは掠れた声で訊ねた。 「旦那様が、どうしてここに……?」 「妙な気配がしたから様子を窺いに来た。そうしたら突然リゼルが消えて、手をこまねいていたところだったんだ。悪い、遅参を詫びさせてくれ」 「そ、そんなことはありません」
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