11 襲撃

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 飛び上がったのはリゼルだ。思わず自分を指差して、 「わ、私が……っ?」  呻くように言えば、グレンは鷹揚に頷いた。 「ああ。それが一番良いだろう」  思いもよらぬ提案に、愕然と首を振る。どうしてそんな大切なことをリゼルに明け渡すのだろう。 「……記憶を失くしたままでいてください、と頼むかもしれないのですよ」 「それがリゼルの望みなら」  さらりと告げられ、ますます困惑する。グレンの面持ちのどこにも冗談の気配は見つけられない。心の底から、リゼルの選択に従うつもりのようだった。  グレンに記憶が戻れば――。  目を閉じて、彼が記憶喪失になってからのことを思い返す。本当に、魔法にかけられたような時間だった。どれをとっても愛おしくて、宝物みたいに抱きしめて、死ぬまで絶対に忘れない。  初夜の寝室で冷たく追い払われて以降、永遠に心は通わせられないのだと諦めきっていたのに。 (――だとしても。この時間が、泡みたいに消えても、いい)  リゼルの心はとっくに決まっていた。ついと顔を上げ、メイユに向かって手を差しだす。 「旦那様の記憶を返してください。他人の記憶は、誰かがいじっていいものではありません」  隣でグレンが微笑む気配がする。それだけで、この選択は間違っていないのだと信じられた。 「お姉様、正気?」
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