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12 取り戻した記憶
*
――グレンへの襲撃は二度あった。
記憶喪失となったのは二度目の襲撃。
一度目は、記憶喪失の一ヶ月前で。
まだ、グレンとリゼルの距離が月と太陽よりも遠かった頃のことだ。
『旦那様!?』
その日、血だらけになったグレンと玄関ホールで行き合ったリゼルは、悲鳴をあげて駆け寄った。
彼は至る所に傷を負い、自力で歩けているのが不思議なほどだった。騎士服は泥に汚れていて、あちこち破けている。
だがグレンは不機嫌そうに眉根を寄せると、冷たくリゼルをあしらった。
『放っておけ。これくらいは怪我のうちに入らない』
『そ、そんなわけには参りません』
鋭い眼光に怯んだものの、リゼルもはいそうですかと引き下がるわけにはいかなかった。どう見たって怪我の範疇である。慣れ親しんだ手つきで髪を一本抜き、回復魔法を発動させた。
リゼルの両手に光が集まり、それがみるみる怪我を治していくのを目の当たりにして、グレンは目を見張った。大人しく治療を受けてくれたので、リゼルも安堵する。
聞くと、魔獣退治の最中に、唐突に興奮しだした魔獣の鉤爪に引っ掻かれたという。
『コーネスト家をよく思わない政敵か、あるいは他の何かか。何でも構わないが……』
忌々しげに舌打ちするグレンを治療しつつ、リゼルはじっと考えこんでいた。頭には、つい先日、異国の魔法書をもとに開発した魔法が思い浮かんでいた。
『あの、旦那様』
おずおずと言うと、グレンは無言でリゼルを見据えた。酷薄な目つきに怖気付きそうになるも、勇気を奮って、リゼルは訴えた。
『旦那様に保護魔法をかけてみてもよろしいでしょうか……?』
グレンが双眸を瞬かせる。真面目な顔のリゼルと、たった今治ったばかりの傷口とを見比べてみて、怪訝そうに柳眉を寄せた。
『何だそれは』
『ええっと、マギナの保護魔法とは本来、物理的な障壁を作成するに過ぎないのですが、それに異国の系統である交換魔法と反射魔法を組み合わせることによって、魔法による攻撃も防ぐことができ』
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