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『わかった。俺にはわからないことがわかった』
目を輝かせて早口になるリゼルをグレンが片手で制する。それからつくづくとリゼルを眺め、
『俺も魔女については調べたが、魔法には代償がいるんじゃなかったのか』
『し、調べられていたのですか? えっと、そうですね。基本的に、代償が重ければ重いほど魔法の効果は高くなります』
軽い驚きとともに首肯すると、グレンが鼻で笑う。
『それで、俺は一体何を求められる? 金か? 命か? 魂か?』
『いえ、特に旦那様から何かをいただこうとは思っておりません』
本心だった。リゼルは別に、グレンの歓心を買おうとして申し出たわけではない。ただ大怪我をした人がこれからも危機に陥るというならそれを阻みたかったし、思いついた魔法を実際に使ってみたいという欲もちょっとだけあった。
リゼルは微笑み、緊張と期待にどきどき鳴る胸元に手を当てて言った。
『この魔法には、私の幸せな記憶を対価にしようかと思います』
グレンの目が大きく見開かれる。
『どういう意味だ。お前にとっては大切なものではないのか?』
『その通りです。だからこそ、魔法の効果も強くなる』
迷いのない頷きに、呆れたようにグレンが首をふる。
『そんなことを言われても信じられるか。友人や家族のことも忘れるかもしれないんだぞ。やめておけ』
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