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とはいえ、コーネスト家での日々は平和なものだった。グレンとは顔を合わせることさえ稀だったが、マギナ家の離れでの生活に比べれば楽園だ。何せ三食出るし、夜はふかふかのベッドで眠れるし、罵声を浴びせられることも皆無。
ほとんど見向きもされていなかった温室を改造してこっそり魔法庭園を作り上げても怒られなかった。そもそも気づかれなかったのかもしれない。
だからリゼルはグレンに心から感謝していた。夫となった人と交流できないのは、寂しくはある。でも、それは望み過ぎというものだろう。
こんな生活がいつまでも続くといいな、とひっそり毎日祈っているのだ。
「……リゼル様はお人よし過ぎると思いますけれどね」
黙って追憶に沈んでいたリゼルに、ネイがぽつんと声を投げる。ハッと顔を上げると、ネイはリゼルとグレンを見比べて大きなため息をついた。
「冷たい態度を取る夫に、妻が感謝する必要がどこにあります?……まあ、私はリゼル様のそういうところに救われたので、何があってもついて行くだけですけれど」
「ネイ……ありがとう」
リゼルはネイの手を取る。ネイはかつて、リゼルの住んでいた離れにやって来た物乞いの孤児だったのを、リゼルが侍女として引き取ったのだった。
初めて会った時よりだいぶ大きくなった手を握り、リゼルは柔らかく微笑む。
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