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グレンはごまかさなかった。はっきりと、勘違いのしようもないほど明確に、淡々と事実を伝えてくる。
「――だが」
そこで言葉を区切り、グレンが強くリゼルの手を握りしめた。その大きな手のひらをずいぶん熱く感じて、リゼルは自分の手が、氷にでも浸かったように痺れて冷え切っていると気づく。
グレンはわずかに身を乗りだし、厳かに断言した。
「俺は、今までの言葉を嘘と言うつもりはない」
「え……?」
見開かれた翡翠色の瞳が、月影を宿してきらめいていた。グレンはこの上なく真摯な眼差しをリゼルに向けていた。
息を呑んで見つめ返すと、なぜかグレンの目元がじわりと赤くなる。
「……愛おしく思うのも仕方ないだろう。幸せな記憶を代償にすると言って、俺を助けたこと自体を忘れるような女を前にして」
「あ……え、ええ……?」
急に心臓がばくばくと脈打ち始めて、全身に熱い血を送り出す。手足の先まで熱が巡って、指先のこわばりをほどいていった。
顔にも熱が集まって、薄闇の中でも隠せないくらい朱に染まっているに違いない。リゼルは恥ずかしくなって、ぱっと顔を背けた。
「あ、あの、でも、私はその、旦那様に好きになってもらおうとして、保護魔法をかけたわけではありませんし。あ、新しい魔法を試してみたいな、という、どうしようもない望みがあったんですよ……?」
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