212人が本棚に入れています
本棚に追加
「知っている。だが、そういうところも可愛く見えているのだから仕方がない」
「あ、か、かわ……」
狼狽えてろくに返事もできないリゼルに、グレンは畳みかけた。
「愛している、リゼル」
伸べられた手が、そっと頬に添えられる。視線を合わせるように、優しく顔を上向かせられた。
「本当にすまなかった。記憶喪失と言って騙していたことも、結婚してからずっと冷たくあたっていたことも。俺は愚かだった。リゼルを知ろうともせず、勝手な決めつけで傷つけた」
切々と告げられる言葉は、苦しげに掠れている。
「許しを乞うつもりはない。俺にできるのは、この先一生をかけて、リゼルを愛し抜くことだけだ。だが……リゼルが俺を許せないというのであれば、従おう」
顔の熱も引かないまま、リゼルは首を横に振った。こみあげてくるものを飲みこみもできず、ひっくとしゃくりあげる。ぽろぽろと、涙があふれて頬を滑った。
グレンが焦ったようにリゼルの目元を親指で拭う。
「やはり、嫌だったか……?」
「そうではありません」
リゼルは微笑んで、グレンの手を自分の手で包みこんだ。温かい手だった。今までの人生で差し伸べられた中で、一番。
「嬉しいのです。とても。言葉では言い表せないくらい」
最初のコメントを投稿しよう!