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職場で陰湿な嫌がらせをされていて、転職を考えていることや…八雲先生の不可解な行動についてどう思うか、颯斗の意見を聞こうと思っていた。
─…だけど、、
長年一緒にいて初めて聞いた”独立”の話し。
まだその話が固まった訳では無いが、どうしても頭の中を過ぎる香菜の存在。
将来的に、自分のお店を持つにあたって必要な人間という風に考えれば─…
傍に置くのは、歯科衛生士の資格を持つ私ではなく、同じように美容師免許を持っている香菜が選ばれるような気がしたんだ。
その上、帰りを待たなくていい…なんて言われてしまうと。もう私は必要ない、と言われたみたいで…自分の相談事なんてしている場合ではないと思った。
「俺は、そんなつもりで言った訳じゃなくて、」
「颯斗が何を考えているのかっ…私にはもう分からない」
「……菜々…?」
「待たなくていい…なんて、言わないでよ。帰りたくないならっ、素直にそう言えばいいのに」
「そんなこと、言ってないだろ?菜々…どうしたんだよっ…」
「なんでもないっ…もう、先に寝る」
逃げるようにリビングを後にして寝室に籠った。ベッドの中で涙を拭い少し冷静になってから…
”おめでとう”の言葉を一度も口に出来なかったことに気付き…自己嫌悪に浸った。
私は自分のことばかりで、颯斗の気持ちを考えることなく一方的に責め立てるようなことばかり口にしてしまった。
一緒に喜んであげたかったのに…醜い感情ばかりぶつけてしまった。きっとアシスタントの”香菜”なら…自分の事のように喜んで、颯斗を祝ってあげたんだろうな─……
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