アイラブユーを聞かせて

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これまでの人生─…私の隣には颯斗がいるのが当たり前で、異性と触れ合う機会なんてあるはずもなく…こんなふうに少し触れられるだけでも”気持ち悪い”と感じてしまう。 八雲先生に悪気があったのか、ただ冗談のつもりでからかっただけなのかは分からないが…私の中で”生理的に無理な人”という立ち位置に彼がついた瞬間だった。 その後、先程のやり取りなどまるで無かったかのように普通に仕事をして業務的に接してくるところも気味が悪くて、もう一刻も早く帰りたくて仕方がなかった。 「菜々さん、顔色悪いですけど…大丈夫ですか」 ようやく退勤の時間になり、誰よりも早く更衣室から出ようとした私に…一つ年下の愛莉(あいり)ちゃんが声をかけてくれた。 「……だ、大丈夫。お昼ご飯少なかったからお腹減っちゃっただけだよ、帰っていっぱいご飯食べるね」 「そうですか…?無理しちゃダメですよ」 心配顔の後輩に見送られながら、タイムカードを打って足早に医院を後にした。そのままスーパーに寄って買い物をしようと思っていたが…… 「……颯斗っ、会いたい」 一秒でも早く颯斗の顔を見て、ただ安心したかった。この何とも言えない気持ちの悪い状態から私を解放してくれるのは…この世でたった1人、颯斗しか存在しない。
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