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「私のために道をあける必要もないし、あけなかったところで殺しはしないわ」
「いや……その、それは……」
シルビアの直接的な物言いに男は言葉を濁らせ、必死に言い訳を考えているようだったが、シルビアはお構いなしに言葉を続けた。
「けど確かに、あなたのような醜い小豚は隅の方に寄っていただけると助かるわね。気遣いに感謝するわ」
「……っ!」
シルビアの取ってつけたような笑顔は、明らかに相手を嘲笑していた。
男の顔はみるみるうちに赤く染まったが、シルビアは気に留めることなくアカデミーを後にした。
アカデミー生の間で「悪魔公女」と呼ばれているシルビア・シャーノンは、その名の通り、悪魔のように冷血無慈悲で、人を惑わす美しさを持つ貴族令嬢だった。
腰まで続く艶やかな漆黒の髪に、深いアメジスト色の大きな瞳は、彼女の美しさを際立たせる。恐ろしいほど優れた容貌を持つ彼女は、今年成人を迎え、さらにその美しさに拍車がかかったようだった。
そして彼女は、公爵令嬢という誰もが羨む地位に君臨するのみならず、限られたものしか入学を許されていない、王都唯一の総合アカデミーに首席で合格し、一位の座を誰にも譲ることなく卒業の日を迎えた。
しかし、前述の通り、その美しさや聡明さを持ってしても、シルビアは誰かに好かれるような人柄ではなかった。
飼っていたペルシャ猫が事故で死んだ時も涙は一粒も流れなかったし、クラスメイトが事故に遭い周囲は涙する中、シルビアは「そう」と短く反応するのみで、かわいそうなクラスメイトに同情している気配すらなかった。
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