8 愛しい記憶

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 ああ、どうしてだろう。さっき紅茶を口にしたばかりなのに、喉が渇いて仕方がない。  シルビアは小さな瞬きを何度も繰り返し、自分の手の甲をじっと見つめた。 「私は……、私は、正しい選択をするつもりです」 「俺から離れることが、正しい選択だというのか?」 「……はい」  そう短く返事をすると、イヴァンは押し黙った。  このまま彼の前に立っていると、あまりの悲しさに倒れてしまいそうだった。 「ではこれで、失礼致します」  シルビアはイヴァンに背中を向け、出口へと向かった。  足を進めるシルビアの背後から、イヴァンの硬い声が聞こえる。 「本当にいいのか」 「はい」 「その気持ちはもう変わらないのか」 「はい」   「ならどうして……!」  立ち上がったイヴァンがシルビアの腕を掴み、思い切り引き寄せた。  イヴァンの苦しそうな顔に、胸が苦しくなる。 「……っ」 「どうして……泣いているんだ」  シルビアはそう言われて初めて、頬に伝う涙にそっと触れた。 (私、泣いているの……?)    一度流してしまったら、もう止まらない。熱い涙がとめどなく溢れ出て、ドレスを濡らした。 「わた、私は……」  嗚咽を堪え、必死に声を出す。  本当はその胸に飛び込んで、彼の匂いを思い切り吸って、声をあげて泣きたい。  そんな気持ちの横で、薄暗いモヤが心を侵食しようとしていた。 (もし、彼が私に飽きてしまったら?) (もし、彼が私に絶望してしまったら?) (もし、彼が私を憎むようになってしまったら?) (もし、彼も父と同じように私を見捨てたら?)  すると、イヴァンがシルビアを抱き寄せた。 「殿下……?」 「俺は、お前を見捨てたりはしない」  イヴァンの手にぐっと力が入る。
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