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ああ、どうしてだろう。さっき紅茶を口にしたばかりなのに、喉が渇いて仕方がない。
シルビアは小さな瞬きを何度も繰り返し、自分の手の甲をじっと見つめた。
「私は……、私は、正しい選択をするつもりです」
「俺から離れることが、正しい選択だというのか?」
「……はい」
そう短く返事をすると、イヴァンは押し黙った。
このまま彼の前に立っていると、あまりの悲しさに倒れてしまいそうだった。
「ではこれで、失礼致します」
シルビアはイヴァンに背中を向け、出口へと向かった。
足を進めるシルビアの背後から、イヴァンの硬い声が聞こえる。
「本当にいいのか」
「はい」
「その気持ちはもう変わらないのか」
「はい」
「ならどうして……!」
立ち上がったイヴァンがシルビアの腕を掴み、思い切り引き寄せた。
イヴァンの苦しそうな顔に、胸が苦しくなる。
「……っ」
「どうして……泣いているんだ」
シルビアはそう言われて初めて、頬に伝う涙にそっと触れた。
(私、泣いているの……?)
一度流してしまったら、もう止まらない。熱い涙がとめどなく溢れ出て、ドレスを濡らした。
「わた、私は……」
嗚咽を堪え、必死に声を出す。
本当はその胸に飛び込んで、彼の匂いを思い切り吸って、声をあげて泣きたい。
そんな気持ちの横で、薄暗いモヤが心を侵食しようとしていた。
(もし、彼が私に飽きてしまったら?)
(もし、彼が私に絶望してしまったら?)
(もし、彼が私を憎むようになってしまったら?)
(もし、彼も父と同じように私を見捨てたら?)
すると、イヴァンがシルビアを抱き寄せた。
「殿下……?」
「俺は、お前を見捨てたりはしない」
イヴァンの手にぐっと力が入る。
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