8 愛しい記憶

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「城の頂上から落ちてきても、俺は必ずお前を受け止める」  うつけ者め。あの高さから飛び降りれば、受け止める方も無事でいられるはずがない。 「ビスチェ伯爵令嬢はどうするんですか」  突然シルビアがそう尋ねると、イヴァンは意外な名前に思わず聞き返した。 「ビスチェ伯爵令嬢?」 「殿下と特別な関係だと聞きましたが」 「特別……?ああ、そういえば誕生日が同じらしい。それがどうした?」  イヴァンとビスチェ伯爵令嬢の間に何かあるはずがないとわかっていながら、気になって聞いてしまう自分に呆れて笑ってしまう。 「いえ、なんでもありません。ただ、私を好いていてくださるとおっしゃっていたのに、私以外の女性の誕生日を覚えているのはどうなんでしょうか」 「……よし、もう忘れたぞ」    シルビアは笑い声をあげるのをこらえ、イヴァンの背中にそっと手を回した。  彼の背中は大きくて、温かった。  *** 「これより、王太子イヴァン・ザカルトと、シルビア・シャーノンの結婚式を執り行います」  神父が二人の間に立ち、誓いの言葉をすらすらと口にした。  聴衆は皆、過去にうつけ者と呼ばれ蔑まれてきたイヴァン・ザカルトと、才女であるが感情が欠如している悪魔公女シルビアシャーノンを見て、冷笑を浮かべ、囁きあった。 「お似合いの二人だな」 「ああ、どちらとも大きなものが欠如している」  神父が神への誓いを終え、二人に向かって言った。 「その命が尽きる最後の日まで、互いを尊重し、互いを思いやり、互いを愛すことを誓いますか」
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