8 愛しい記憶

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 シルビアが「はい」と返事をすると、顔をしかめたイヴァンの口が動き、シルビアがきょとんとした顔で見つめた。  そして、しばらくすると、 「ふっ……ふふっ」  と、シルビアが声を漏らし、小さく笑った。  すると、それを見ていた聴衆がざわついた。 「悪魔公女が笑ったぞ……!」 「あのシルビア様が?一体何があったんだ?」 「いやいや、それにしても……」  なんと美しい——。    シルビアの笑顔を見た人々は皆、ほうっと満開の花が咲いたような眩しい笑顔に釘付けになった。  ざわめきに気づいたイヴァンが、怒ったように眉を吊り上げる。 「あまりそのような笑顔を皆に見せるな……!」 「なぜです?」 「特別だからだ!」  イヴァンを胸を張ってそう言った。目の前の愛しい男を抱きしめたい気持ちをぐっと堪え、シルビアはじっと見つめ返した。 「それでは誓いのキスを……」  イヴァンがシルビアのベールをそっと持ち上げる。近づく真剣な表情に、なぜか愛おしさが込み上げる。   ——最後の日などない。俺は来世もお前と結婚するつもりだ。    うつけ者の堂々たる宣言を思い出したシルビアは、またくすぐったいような気持ちで笑みをこぼした。  fin.
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