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振り向いた。誰もいなかった。目を擦った。
「そうだよね」
つぶやいた。空を見上げると、夕焼けが輝いていた。いつも、帰るのが遅くなると母さんと迎えに来てくれたんだよね。君はもう、いない。
カラスがカァカァ鳴いている。家に帰らないと。ブランコから立ち上がるとカシャンと鎖が揺れる音がした。
家に着いた。外壁に凹んだ傷があった。おじいちゃんが生きていたころ、車を駐車しようとしてアクセルを踏んで、壁に突っ込んでついた傷だ。つまり、私が小学生のときの家のようだ。中学校に上がるころに、その傷は直したから。
ドアノブを握って回してみる。開かなかった。家の中には入れないらしい。一番安いベーシックプランだからしょうがないか。
「いやー、でも……うーん」
プレミアムプランは高くて払えないからともかく、せめてスタンダードプランにしておけばよかったかな。いや、さらにバイト代三か月分は出せないな。中高は寮生活だったから、実家にそんなに思い出があるとは言い難い。
ぐにゃり。
視界が歪みだした。もう、おしまいらしい。
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