ロストワン

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 雨上がりのアスファルトの匂いが好きだ。アメリカの不味いグミを口に含んだときみたいな匂いがする。紫陽花の花が咲いている。この家のおばあちゃんは、よく君を可愛がってくれたね。  止まれ。の標識で止まって、左右を確認して右に曲がった。水たまりに足をぼちゃん! と突っ込んで、靴の中がびちゃびちゃになった。 「あちゃー。ちべたい」  こんなとき君がいたら、水たまりに全身突っ込んで行っただろうね。昔、大きい水たまりにお風呂みたいに浸かったとき、リードを引っ張って引き上げるのが大変だったな。私も君も、びしょぬれになった。  君と歩いた散歩道。毎日歩いた道。あ、ケーキ屋さんだ。毎週日曜日に、ここでケーキを買ってたな。むすっとしたお姉さんがやっていて、でも可愛くてすごくおいしいケーキだった。お姉さんのこと、職人さんって感じでかっこよくて好きだった。  お姉さんまだ生きてるかな。またあのケーキ食べたいな。  少し歩いたらバス通りに出た。道路をバスが通った。バスには誰も乗っていない。通行人とぶつかりそうになって避けた。 「あ、」  。何年たっても慣れないや。  子供の頃よく遊んだ公園に着いた。遊具は記憶のままだった。ブランコに乗ってしばらく漕いでみた。子供の頃を思い出して、少しノスタルジックな気持ちになった。  小学生の頃の友達、中学生の頃の友達、高校生の頃の友達……みんなまだ生きてるのかな? 「ワン!」
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