【23話】いつの間にか眠りに落ちてしまったみたいです

1/1

282人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

【23話】いつの間にか眠りに落ちてしまったみたいです

「おかえり、ノア」 「……た、ただいまです」  ギルド浴場から部屋へと戻ってみると、ロイルの姿があった。既に上がっていたようだ。  部屋の灯りは無く、窓から見える薄闇だけが頼りだ。 「今日はさ、ノアに出会うことが出来て本当に嬉しかったよ」 「わ、わたしもです……。わたしも、ロイルが声を掛けてくれたおかげで、もう一度……」  ――もう一度、夢を追い掛けようと思うことが出来た。  だからノアは、ロイルに心から感謝している。  ロイルと出会うことがなければ、冒険者を止めていたに違いない。  もし仮にボドとエリーザの荷物持ちを続けることが出来ていたとしても、それも結局は明るい未来など訪れることはなかっただろう。  魔力ゼロから変わることなど、一生無かったはずだから。  その心を安らげるように、ベッドの中で今日の出来事を一つずつ話していく。たまに笑いが漏れたりしつつ、それでも静かな空間に二人は溶け合っていった。  そして、あれほど緊張していたのが嘘のように、ノアはいつの間にか深い眠りに落ちていく。 「……おやすみ、ノア」  可愛らしい寝顔を見せるノアを見守り、ロイルはそっと囁く。  ノアとロイル。二人の長いようで短かった一日が、ようやく終わりを迎えた。  翌朝――、 「うぅ、むにゃ……ふわぁ」 「あ、起きた? おはよう、ノア」 「んんぅ……? ……………………ぁ」  寝ぼけ眼に声を掛けられ、ノアは固まる。  ここはどこだ? この人は誰だ?  昨日、一体何があった?  寝起きで上手く回らない頭に鞭を打ち、一つ一つ思い出していくことで、ノアはついに思い出す。ロイルと同じ部屋に寝泊まりしていたことに。  と同時に、寝顔と寝起きの顔をこれでもかと見られてしまったことにも……。 「……お、おはよう……ごじゃいます……」  口が滑りつつも、朝の挨拶をする。  これから毎朝、これを経験することになるのか……。  毛布で顔を覆い、朱色に染まった表情を見られまいと、ノアは必死に隠すのであった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

282人が本棚に入れています
本棚に追加