1.雨の匂い

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1.雨の匂い

 はらはらと土へと水が染みこんでいく。その土を通し、水分を体内に取り込んでいくのは、瑞々しく実ったチンゲンサイだ。他にもトマト、キュウリも育っている。彼らに意思はないし、最初に水を吸い込むのは土だ。にもかかわらず、土が水を吸い込んでいく様を見ていると、人が水をがぶ飲みするときの喉が鳴る音が聞こえる気がする。  周囲に漂うのは土の、いいや、雨に似た匂い。 「スバル」  肩を叩かれ、スバルははっとする。慌ててじょうろを引き起こす。 「ごめん。リオン。水を無駄に……」 「無駄ではないよ。こいつらが育たないと俺らも生きてはいけない。幸いにも……」  スバルより頭一つ分高い位置で、リオンがため息をそっと落とす。 「こいつらにはその水は毒ではなかったようだから」  言いながら彼は隔壁の向こうを新緑に似た碧眼で見据えた。  厳重にロックされたその先にあるのは……密閉された三つの休眠用カプセルだ。  そこで三人の仲間が永眠している。
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