12.腹立たしい

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12.腹立たしい

「あ、うん。ごめん。そうなんだ。もっと志がある人がここに来るべきで……。でもまあ、ことここに至ると僕で良かったのかもしれないけれど……」  リオンが憤るのも当然だ。有人探査における、宇宙飛行士一人の一日辺りのコストは1臆を越える。だからこそこの道は狭き門であり、人選に失敗は許されないと言わんばかりのハードルが用意されている。にもかかわらずここにいるのがこんな不純な動機を持つ自分だなんて。  でも、もういいのではないだろうか。全部、もう。 「僕でよかったんだ。きっと」 「俺が最低と言ったのはスバルのことじゃない。君の先輩だ」  返す刃の如き素早さで言い返され、言葉が途切れる。苛立たし気に彼はブロンドを掻きまわす。 「なんて無神経な男だろう。君の良さを微塵も理解せず、しかも突き放すように見せかけて断ち切ることもさせてくれない。結果、今の今まで君は彼に囚われている。これを最低と言わないでなんて言う?」  ああ、腹立たしい! と、座ったままリオンは片足をとん、と踏み鳴らす。  その姿はまるで……過去の自分のようだった。あのとき、自分は怒っていた。彼のことを理解せず彼を傷つけた彼の恋人に。それを、先輩は驚いたように見つめていて。  見つめて、いて。  雨を背負った彼の面影が瞼を刺す。  気が付いたら視界が滲んでいた。とっさに目元を片手で押さえ、俯く。 「ごめん。変な話を聞、かせて。君がそんなに怒ることは」  ない、と言いかけたとき、隣に座っていたリオンの腕がスバルの頭を抱え込むように抱き寄せた。
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