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5.あの人
気づかわし気にリオンがこちらを見下ろしてくるのがわかった。が、彼の口から出たのは船外の薄闇に閉ざされた世界と真逆の朗らかなものだった。
「雨か。確かに。ここには雨は降らないな。俺も好きだったよ。雨。雨上がりの虹も。スバルはなにか雨に思い入れがありそうだね」
雨。雨、上がり。
──いいよ。雨が上がるまで。
深く、封じていたはずの声が心の表に浮かび上がる。
ここにはもう彼はいない。いないどころか、おそらくもう一生会えない。もう。
小さく呼吸を整え、自分に言い聞かせたときだった。
「スバル、いい」
ふっと声が落ちてきて、スバルは顔を上げた。心配そうにのぞき込むリオンの目と目が合った。
「話したくないことだったんだろう。悪かった。君の気が紛れると思っただけだったんだ。大丈夫だ。聞かないから」
慌てたようにまくしたてる。その本気で困った表情を見て、スバルはつい微笑んでしまった。
エンジニアとして高いスキルを有し、判断力もクルーの中でずば抜けていて、いつも凛と立っている。それが普段の彼だ。
一方で、誰かの顔が曇っていることに気付くと、誰かが肩を落としていると悟ると、その誰かのために、その誰かが笑ってくれるように、全力で寄り添おうとする。彼がもともと持っている行動力のすべてを落ち込む誰かのために捧げてくれる。
そんなところが……少しあの人に、似ている。
「違うよ。話したくないじゃない。むしろ、話したいかもしれない」
そう言うと、彼の顔から焦りが薄れた。安心させるように瞳を和ませ、スバルは彼の袖を軽く引く。
「少し、聞いてくれる?」
言葉の隙間から感じ取ることがあったのだろうか。リオンは数秒こちらを見つめてから、ゆっくりと頷いた。
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