6.過去

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6.過去

 大学時代、友達に誘われてなんとなく入会した軽音楽サークルに先輩として彼はいた。  第一印象は……暗そうな人だな、だった。ずるずると前髪を伸ばして瞳を隠しているその髪型が陰鬱で、着ている服もモノトーンばかりで。そばにいるだけで陰気になりそう、なんて思ってしまってすらいた。  そんな印象最悪だった彼のことが気になるようになってしまったのはいつからだったのか。正直、覚えてはいない。  ただ、聞いてしまったのだ。前髪を伸ばしたあの髪型は、ついつい相手を凝視してしまう癖がある自分を戒めるためのものであるらしいこと、モノトーンの服装は、ファッションに疎すぎてちぐはぐな服を着てしまい、恋人から一緒に歩くのが恥ずかしい、と言われたためだということ。  この人は、相手のことを考えて自分を変えられる人なのだと知った。  ついつい目で追うようになってしまって数か月、腑に落ちた。ああ、自分はこの人が好きなのだ、と。  だが、もちろん告白しようなんて気にはならなかった。そもそも彼には高校時代から付き合っている彼女がいる。何度か見たことがあるが、小柄で丸顔の可愛らしい子だった。  いつもセピア色の彼の周りの空気が、彼女といるときだけはほんのり色がつくような気がしていた。  だから言うつもりなんてなかったのだ。絶対に。なのに、あの雨の日、スバルはその自分の誓いを破った。  だって、その日、彼は。  泣いていた。
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