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7.過去2
軽音サークルなんて名前だけれど、別に普段からばりばりライブをするようなサークルではない。流行の曲を集まった人間で気まぐれにセッションしたり、軽いノリで作曲して披露したりといった緩い活動だ。そんな調子だから毎日部室へ訪れる人間なんてまずいない。
その中でスバルはほぼ毎日部室に顔を出していた。
顔を出せば……会えるかもしれなかったから。
朝からしとしとと細い雨が降り続いていた。履いていたジーンズもじっとりと湿り、太ももに張りついて不快なことこの上ない。タオルあったかな、とため息交じりにハンカチで鞄を拭いてドアを開けたスバルはそこで固まった。
無人の部屋の中、彼の姿が見えた。乳白色に霞む窓のほうを向いて座る彼の肩は、震えていた。
喉の奥で声が張り付いて出てこない。どうしようどうしよう、と狼狽えている間にドアが軋んでしまい、その音に我に返ったように彼の背中が大きく揺れる。慌てて拳で目を擦る彼の背後で、すみません、と言ってスバルは扉を閉めて退散しようとしたが、そのスバルを呼び止めるように彼は訊ねてきた。
「見ちゃった、か?」
しらばくれてもいい、彼はしらばくれてほしいのかもしれない。きっとそうだろう。
そう思ったのに、だめだった。
そろそろとドアの中へ身を滑り込ませ、スバルは小さく頷く。
「はい、見ました」
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