9.知ってた

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9.知ってた

 言い放つと彼がぎょっとするのがわかった。唇がわずかに開く。けれどなにも言葉を紡がない彼にいらいらした。 「あんな女、全然先輩に似合ってねえし。全然わかってねえし」  そうだ。わかっていない。あの女はなにも。なにも。 「何着ようが先輩は先輩だし。それをダサいとか一緒に歩きたくないとか。何様だよ。なんぼのもんだっての!」 「木月(きづき)」  硬い声がスバルを止める。前髪の奥からこちらを見つめるのは沈んだ闇を抱いた黒い目。 「やめてくれ。彼女を悪く言うのは」 「嫌だ」  わかっている。彼が彼女をまだ好きなことだって。自分の一部を穢されたように感じて怒っていることだって。それでも。 「嫌だ。好きな人を悲しませた女に気を使ってなんてやらない。絶対」  さしもの彼も気づいたのか。引き結ばれていた唇がふうっと解ける。  その唇が拒絶の言葉を形作るのを見るのが嫌でスバルは急いで目を伏せる。   そのまま扉に手をかけようとしたとき、知ってた、と言う声が聞こえた。 「知ってた。お前の気持ち。でもお前は口にしないって思ってた」
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