【1】花婿探し、始めますわ!

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【1】花婿探し、始めますわ!

「お父様、わたくし決めました! 結婚相手を探そうと思います!」  その一言から、アリーヌ・ラングロアの花婿探しは始まった。但し、 「あぁ、わたくしよりも強い殿方が現れるといいのですが……」  その道のりは、血で血を洗う長い戦の幕開けでもあった。  お転婆公爵令嬢のアリーヌ・ラングロアは、両親が持ってくる縁談には見向きもせず、お茶会や夜会での誘いにも一切靡くことがなかった。  理由は単純。  自分よりも弱い相手と付き合いたくないから。ただそれだけだ。  アリーヌが幼い頃に読んだ絵本には、ドラゴンに囚われた王女と、白馬に乗った王子様が登場する。王子がドラゴンを倒して王女を救い出すだけの、いわゆる王道の物語だ。  とはいえ子供心は真っ直ぐで純粋だ。アリーヌはその絵本を読んでからというもの、結婚相手はドラゴンよりも強くなくてはならないと心に決めていた。  しかしながら、現実でドラゴンを倒すほどの猛者は滅多に現れない。それこそ【勇者】の称号を持つ者や、冒険者の中でもほんの一握りに限られる。  故に、アリーヌは待つことにした。  ドラゴンに囚われた王女のように、いつの日か白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるその日を夢見て、己の拳を鍛えながら……。  そして今現在。  アリーヌが結婚相手を探すと宣言した翌日、父はラングロア領内にて御触れを出す。  ――我が娘、アリーヌ・ラングロアと一対一の決闘を行い、見事勝利した者には、結婚を許可する。  これは何の冗談か。  可憐で華やか容姿端麗、けれども驕ることなくお淑やかさを兼ね備えた非の打ち所の無い公爵令嬢、それがアリーヌ・ラングロアの人物像だ。  そのアリーヌと、よもや一対一の決闘を行うなど、誰が想像するだろうか。  そしてその褒美に当たるものがアリーヌ自身となれば、誰もがラングロア公爵は気が狂ったに違いない、と確信した。  しかしながら、これは嘘でも偽りでもない。現に御触れは出ているし、公爵邸への門は開かれている。  ざわつきながらも領民は声を掛け合い、それは領内を越えて伝わり始める。  おかしな条件ではあったが、もし本当にアリーヌとお近づきになることができるならば、否、結婚することができるのであれば、こんなにも美味しい話はない。  下級貴族でも、ゴブリンに後れを取る程度の冒険者でも、そこら辺にいるただの村人でさえも、アリーヌと一対一で戦って負けるはずがない。そう思った。そしてアリーヌを手中に収めることができる。公爵家の仲間入りをすることができる。そう思い込んでしまった。  故に、気付けば大勢の男たちがラングロア邸の敷地内に用意された決闘場へと押し掛けていた。その中には女性も混ざっており、性別の垣根を越えた人気振りだ。 「見てください、お父様! こんなにもたくさんの殿方が、わたくしとの決闘を望んでいるのですね……!」 「うむ、そうだな! こんなにもたくさんの男たちが、お前との結婚を望んで……ん? 今お前、決闘を望んでいると言わなかったか?」 「はあぁ、腕が鳴りますわね!」  御触れの効果は抜群であり、アリーヌと父は大いに喜んだ。  だが、二人は気付いていない。  アリーヌと一対一の決闘で勝利した者が、アリーヌと結婚することができるという唯一無二の条件、これこそが大問題であり、アリーヌの結婚相手を探すには悪手としか言いようがないということに……。
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