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【11】リベンジを御所望ですわ!
一夫多妻制のルトルをラングロア公爵がぶっ飛ばした日から、既に半月が流れようとしていた。
今日も今日とて決闘場の隅で二人限定のお茶会を開いて寛ぐアリーヌと、死んだ魚のような目をするラングロア公爵の姿がそこにはあった。
「はぁ、不思議ですわ」
「……何がだ」
「どうして、殿方が足を運んで下さらないのでしょう?」
「……そうだな」
「お父様、それは返事になっていませんわ。何とか仰って下さい」
「……そうだな」
その疑問の答えなら、私の方が聞きたいよ、とラングロア公爵は頭の中で叫んだ。
もはや壊れた人形のように同じ台詞を繰り返してしまうが、このままでは全てにおいて良くない方向へと進んでしまう。何か打開策を考えなければならない。
先日、領土内から王都へと御触れの範囲を広げたというのに、花婿候補は一向に姿を現さない。どうやら既にアリーヌの噂が王都まで伝わっているらしい。故に、立候補=死を意味すると考えているのだろう。
ラングロア公爵は妙案が無いものかと頭を捻るが、しかしながら何も思い浮かぶことはなかった。
「もう日も暮れましたし、今日のお茶会はこれでお終いにしようかしら」
「お茶会ではなくて決闘場を開いているのだがな、もう訂正する気も失せてきたぞ……」
ため息を吐いたのは何度目だろうか。
ラングロア公爵は本日数え忘れたため息を吐いた後、席を立つ。とそこに……。
「――失礼いたします!」
アリーヌとラングロア公爵の他にいなかったはずの決闘場に、第三の声が響いた。
「あら? 貴方は確か……聖騎士さんですわね!」
「アルバンです! ラングロア領第一聖騎士部隊所属の、アルバン・インクラードです!」
「あぁ、そうでしたわ。聖騎士をしているアルバンさんでしたわね」
顔に見覚えはあったが、やはり名前を憶えてはいなかった。
アルバン本人に指摘されることで、アリーヌはようやく思い出す。
「それで……アルバンさん? 今日はどういった御用件かしら?」
決闘場へと足を運び、アリーヌの許を尋ねに来たのだ。
理由は明白だろう。
「はい! 再挑戦をお許し頂きたく、馳せ参じました!」
あの日、あまりにも遠くへとぶっ飛ばされたのだろう。
この地へと戻ってくるのに、今の今までかかっていたとしても不思議ではない。
そして今、アルバンは訊ねた。
再挑戦は可能なのかと。
「再挑戦……それはつまり、わたくしとの決闘を……ということですか?」
「はい、その通りです!」
「な、なんと……それは真か!!」
ラングロア公爵は、思わず声が漏れてしまった。
栄えある一番手であり、同時にアリーヌの腕っぷしの強さを世に知らしめることとなった張本人であるアルバンだが、なんと再挑戦を求めてきた。
「その心意気や、良し!! アルバンよ、貴様はなかなか見どころのある男ではないか!」
グーパン一つでアリーヌとの力量を強引に理解する羽目になったはずだが、それでも諦めず、再び決闘場へと舞い戻ってきたのだ。
「どうだ、アリーヌよ? 一度はお前に敗れた男だが、もう一度チャンスを与えてやるのも悪くないと思うが?」
唯一の問題は、アリーヌ自身が許可するか否かだ。
一度、グーパン一つで返り討ちにした相手である。再挑戦しても無駄だと一蹴するかもしれない。
だが、アリーヌは空気を読んだ。
否、空気を読んだのではなく、己の欲望に忠実であり続けた。
「もちろん、構いませんわ。わたくしはいつでも迎え撃つ……受け入れる準備ができていますもの♡」
当然のことながら、アリーヌは即答する。
その口元は緩み、嬉しくてたまらないといった様子であった。
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