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【9】さすがお父様ですわ!
「しかし困りましたわね……これでは一生、わたくしは独身……独り者かもしれませんわ」
「はあっ、はあっ、……はぁ、くそっ、……安心しろ。その点は心配無用だ」
全く不安そうに見えない表情で不安を口にするアリーヌを安堵させるように、ラングロア公爵が口を挟む。
「この世には……恐らく、恐らく……お前よりも強い男が……いるはずだ。……たぶん」
しかし何故だろうか。
それはまるでラングロア公爵が自分自身に言い聞かせているようだった。
「あの、お父様? 随分と確実性に欠ける台詞ですけれど、そんなに不安ですか?」
「……ああ、そうだ! 不安だとも! 薄々感づいてはいたが、我が娘に勝てる男などこの世に存在しないのではないかとな!!」
「あらあら、それはさすがに言いすぎですわ。わたくし程度では歯が立たない殿方もきっといらっしゃるはずです。たとえば……ドラゴンとか?」
「もはや人ですらない!!」
頭を抱えても天を仰いでも娘の腕っぷしが弱くなることはない。
当然、弱いよりは強い方がいい。もしもの時、我が身を守るための武器となるのだから。
しかしその武器が強すぎるのが問題だ。
どうしてアリーヌは、世の男共が束になっても敵わないほどの強さを手に入れてしまったのか。育て方が完璧すぎたのだろうか。
「……とにかくだ!」
あれこれ悩んで思考を巡らせるが、答えは出てこない。
脱力感からその場に膝をつきそうになったが、ラングロア公爵はギリギリのところで踏ん張る。
「これまでは我がラングロア領土内で話題に上る程度であったが、昨日付けで王都にも御触れを出しておいた。だから恐らく……恐らく、数日も経てば王都から力自慢や魔力自慢の男たちがこぞって来るはずだ……たぶん」
「まあ! さすがですわ、お父様! わたくしの知らぬ間に王都にまで御触れを出して頂けていたとは……! これはわたくしも手加減なく全力で殿方のお相手をしなければなりませんわね!」
「手加減! 手加減しなさい! どうしてお前は同じ轍を自ら踏みに行こうとするのだ!」
「その方がわたくしも楽しいですので」
「――ッ!! お前の楽しみのために御触れを出したわけではない! 結婚相手を探すためだろうがっ!!」
「……ああ、そうでしたわね」
「アリーヌ! お前、今、確実に忘れていただろう!? まさかただ決闘をしたいだけではないよな!? 頼むから違うと言え! 言ってくれ!!」
「もちろん違いますわ、ええ、うふふ」
「くっ、我が娘のことを信じることができない……! 疑ってしまう私が憎い……ッ!!」
どうすれば心の底からアリーヌを信じることができるのかと葛藤するラングロア公爵だが、心配するだけ時間の無駄であることは言うまでもない。
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