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「お待たせしました」
心を込めて作ったパスタを彼の前に置くと、黒沢さんは目を輝かせた。
「……ありがとうございます。いただきます」
丁寧に手を合わせて、パスタを食べ始める黒沢さんを見ていると、充足感で満たされる。
何と言っても、とても美味しそうに食べてくれるから。
「美味しいです」
とても幸せそうに目を細めて、そう言ってくれる彼に癒やされる。
黒沢さんはペラペラ喋るタイプじゃないけれど、お礼や感想などここぞという時はきちんと言葉にしてくれるから、嬉しい気持ちにさせてくれる。
私が毎日楽しく働けるのは、黒沢さんのおかげでもある。
彼が私の作ったパスタを喜んで食べてくれるだけで、日々に張り合いが生まれた。
「今日の日替わりも美味しかったです。ごちそうさまでした」
「お口にあって光栄です」
微笑み合って、温かい空気が流れる。
だけど黒沢さんはその後、いつもよりソワソワしているので気になった。
食後のコーヒーをお出しする頃には、ホールのアルバイトの花菜ちゃんが出勤した。
花菜ちゃんは黒沢さんを一瞥すると、挨拶もせず他のお客様のところに行ってしまう。
本人が言っていたけど、花菜ちゃんは黒沢さんのことが苦手らしい。
「……峰原さん」
突然私を呼ぶ黒沢さんにびっくりする。
自己紹介はしていたけど、彼が
私の苗字を呼ぶことは初めてだった。
「黒沢さん?」
黒沢さんは真っ赤になって私を見つめている。
「あ、あの。こ、これなんですけど……」
彼が差し出した何かのパンフレットに釘付けになる。
「プラネタリウム? 綺麗……」
青い背景に、光り輝くような星座の絵が描かれており、涼やかで幻想的な世界観にうっとりする。
「ま、前に峰原さん、星が見たいと仰ってたんで。興味あるかなって」
「興味ありますあります! 覚えててくれたんですか?」
この間何気なく、星を眺めて癒されたいなんて溢したことを覚えていてくれたんだ。
素直に嬉しくて、ニッコリ微笑むとまた彼は爆発したように真っ赤になる。
これは……と、少し自惚れてしまった。
もしかして黒沢さん、私に対して少しばかり好意がある?
「あ、あの。……僕と一緒に行ってくれませんか?」
そんな言葉に目を見開く。
びっくりした。
……行きたいと思ってしまった自分に。
高鳴る胸を誤魔化すようにして、すぐに頭を下げる。
「……ありがとうございます。お気持ちはすごく嬉しいのですが、私パートナーがいるので、他の男性と出かけるのは……ちょっと」
最後はそんなふうにうやむやに濁してしまった。
彼が寂しそうな顔をしたからだ。
「……そうですよね。すみません。変なこと言って……」
「とんでもない! 嬉しかったですよ!」
本当は、行きたいと思ってしまうほど。
残念そうに苦笑する彼にチクリと胸が痛みながらも、立ち上がってお会計を済ませる黒沢さんを見送った。
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